2019年 02月 27日
事実は小説よりも奇なり、じゃなくて月並み |
昨日のサンドラの話の続き。
サンドラの父親はイギリス紳士(だったらしい)。
サンドラの母親は若い時、夢を見ていた。
コート・ダジュールに住む夢を。
姉と二人でコート・ダジュールに旅した時の楽しさが
忘れられない。
超美人でセクシーだった二人はモテにモテて、
自動車ショーのモデルになったり、
雑誌のグラビアになったり(今では想像できないけど、本当の話)。
「ああいう華やかな生活がしたい、億万長者のような生活がしたい」
と夢見ていた。
眼科医の恋人はコート・ダジュールの夢を叶えてくれそうもないので振って、
スイスで仕事をしている内に、イギリス紳士と出会った。
30代後半のこと、そろそろ美貌にも影が差し始めていた頃だ。
10歳以上年上だったイギリス紳士は有名な新聞のコラムニストで、
世界を飛び回っていた。
彼はコート・ダジュールに住む夢を叶えてくれた。
手頃なマンションを買って、楽しくてゴージャスな生活が始まった。
イギリス紳士は新聞コラムにレストランの記事を書くことが多かったので、
よく有名なレストランに招待された。
「まるで億万長者のような生活だったわー」
フランスの三つ星だか二つ星だかのレストランには、
本物の億万長者が食べにくる。
そういう人たちとも付き合いができて、
彼女はウホウホだった。
普段は、コート・ダジュールの海辺のカフェでエスプレッソ飲み、
砂浜に寝そべって体を日光にさらす生活。
何もかもが、夢に描いた通りの生活になった。
彼女は料理ができない。
できるのは、ハムをパックから出したり、メロンを切ったり、
ま、ジャガイモを茹でたり、インスタントスープを作ったりぐらい。
だから、夫であるイギリス紳士が調理の担当だった。
40歳の時にサンドラが生まれた。
イギリス紳士には元妻との間に二人の息子がいたが、
初めて女の子が生まれたとあって、紳士は喜び、可愛がった。
サンドラは、幸せな子供時代をおくったと言える。
イギリス紳士はその後、新聞社をやめて、
フリーのライターになった。
彼は文章を楽しく書くのがうまく、本や記事は人気があったのだ。
ところが、前回書いたように、サンドラが高校生の時代に、
アラブ人の恋人を持ったことがきっかけで、家庭内は暗くなった。
イギリス紳士はその青年を怖がり、家族から孤立した。
夫婦のことはわからない。他にも原因はあったのだろう。
ついに紳士は別れを決心し、ロンドンに去っていった。
サンドラの母親は、それまで億万長者のような生活を楽しむばかりで、
仕事はしていなかった。当然、生活は苦しくなる。
彼女はマンションを売り、小さな一部屋マンションを借り、
億万長者のシルバーの家政婦のような仕事を始めた。
それでも、毎日の浜辺での日光浴は欠かさなかった。
イギリス紳士はロンドンで、敬虔なキリスト教徒の中年女性と出会い、
またしても結婚して、彼女の家に住んだ。70歳半ばのことだ。
中年女性はやがて癌を患い、亡くなった。
紳士はこの女性の家を相続した。
80代になった頃、このイギリス紳士も癌を患った。
癌がかなり進行した頃、彼はスイスで中年女性と知り合った。
ロンドンで重病を患って独り身でいるのは、心細く寂しい。
この女性がいてくれれば、苦しさも和らぐのではないか。
そんな希望を抱いて、紳士はこの中年女性に求婚した。
中年女性は結婚の条件として、スイスのシャレーを買うことを
要求、いや望んだ。
財テクとしてはいいかもしれない、と踏んだ紳士はこれを承諾した。
中年女性は念を押した。
「あなたが亡くなったら、私はどうやって生きていけばいいの?
ちゃんと遺言に書いてください。私が唯一の相続人だということを」
癌でふらふらの紳士は、これを承諾した。
スイスのシャレーで盛大な結婚式が開かれた。
サンドラも参加し、異母兄弟二人と知り合った。
サンドラの母親も招待されたけれど、猫を置いていくのが心配で
行かなかった。
あ、このに頃はサンドラの母親もコート・ダジュールから
中部フランスの田舎家へと引っ越していた。
結婚式後、サンドラの父親、すなわちイギリス紳士はロンドンの
家に戻った。
けれども新婦は一緒にロンドンには来なかった。
80過ぎた重病人のジジイの世話など御免、というわけだ。
時々、サンドラや異母兄弟が紳士を訪ねるほかは、訪う人もなく、
80代半ばで紳士は寂しく亡くなった。
紳士の「新婦」は紳士の遺言通り、シャレーや現金を相続した。
紳士が3人目の妻から相続したロンドンの家は売られて、
現金にされた。
紳士の子供達が得られるのは、遺留分だけということになる。
ところが、ここに来て、紳士にはもう一人子供がいたことが
明らかになった。
実は、紳士が最初の妻と結婚していた間に、
他の女性との間にも子供を一人、もうけていたのだ。
サンドラに、もう一人異母兄弟ができたわけだ。
この異母兄弟も含めて、4人の子供が
少額ではあるけれど、遺留分を受けた。
この金でサンドラは、ボロボロ田舎家の
屋根を新しくする事ができ、やっと雨漏りから解放された。
サンドラの父親の4人目の妻は結婚詐欺師のようなものか。
実は彼女には、他にも前の結婚で得た不動産がいくつか
あったそうだ。
利口で恥知らずな人って、世の中にはいるものだ。
でも、イギリス紳士はこれを承知で結婚したのかもしれない。
子供に財産をやることなど考えず、
自分が死を眼の前にして、ちょっとでも楽しく、
楽な生活ができるかもしれないことを夢見て。
サンドラや彼女の異母兄弟たちが、この女性に
なされるがままになっているのも、外から見ると
腑に落ちないが、そんな気力は出てこなかったらしい。
それよりもサンドラは、異母兄弟との付き合いができて、
時々会えることの方が嬉しいようだ。
ずっと一人っ子で生きてきたのだから、
兄弟というものの存在を
今になって味わってみたいのかもしれない。
by Solar18
| 2019-02-27 00:01
| 愛とか恋とか
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