2022年 06月 24日
ベイビー |
すぐ近くの郵便局に行ったら、ドアのちょっと手前に
中年の女性が立っていた。
それを無視して、ドアに近づいたら閉まっていた。
「あっ」と言って、ドアに貼られている「開店時間」を読んだら、
9時となっていた。
通りの向こうの教会の塔の時計は9時5分前を指していた。
「あら、まだなんだ」と独り言のように呟いて、
この女性の後に立った。
すると、この中年女性が
「xxx?」と私の名前をそっと呼んだ。
「ええ、そうですけれど」
と彼女の顔をじっと眺めた。
どこかに知った面影はあるけれど、、、。
「ドリス」
「あー、ベイビードリス。気が付かなくってゴメン」
「いいの、いいの、私、老けたから」
「老けたのはお互い様よ」
「あなた、全然変わってないわよ」
「髪染めて誤魔化しているだけよ」
「私、もう染めるのは止めたの。
だから髪はグレーだし、お腹は出てきたし、、、」
確かにベビードリスのお腹や腰回りは
ヨーロッパ女性独特の脂肪がついていて、
主婦的なショートヘアと相まって、
いかにも中年から老年へ差し掛かる女性っぽい。
最後に彼女に会ったのは25年ぐらい前のこと。
当時の彼女は学生らしさを残した、ほっそりした綺麗な女性だった。
二重瞼の大きな目がちょっと霞がかかったように見えて、
とても神秘的だった。
悪友Fが彼女に「惚れて」カップルになったことで知り合った。
いつもここで書いているドリスと混乱しないように、
彼はこの新しい恋人をベイビードリスと呼んでいた。
当時はFがまだアルコール依存症で、
酔っ払うと人に絡んだり、モノローグを続けたりで
手がつけられなくなった。
そのために彼らの関係もしょっちゅう揉めていた。
ベイビードリスもアルコールが入ると、
目が爛々として、いささか異様な光を放ち、
日頃、心のうちに潜んでいる怨念のようなものを
吹き出すような言動をした。
ベイビーはFとの関係を絶とうとしては、
Fがそれを受け入れず、よりを戻す、
というのが繰り返された。
ある時、Fは彼女に拒絶された挙句、
当時彼女が住んでいた2階の家に入ろうと、
建物の外壁をよじ登り、落ちて、足を骨折した。
今でも彼のくるぶしあたりに金属製の板が入っているはず。
結局、二人は別れ、彼女は別の男性と一緒になったり、
別れたりを繰り返していた。
Fの方は現在の妻と知り合って、
厳しい奥さんのおかげで断酒に成功し、クリーンになって
もう10年以上になる。
アルコールの代わりにコーヒーとコーラがぶ飲みの毎日。
数年前、Fが言った。
「トラムの中にベイビーがいるのが見えた。
とても老けていたよ。
あー、別れてよかった」
勝手だねえ。
自分だって前歯が抜けたままで、見る影もないのに。
彼はかなり裕福で財産もあるけれど、贅沢が嫌いで
小さめの住まいに住んで、
洗濯した方が良さそうなヨレヨレジーンズを履いて、
街中でホームレスやアル中の人たちと一緒にタバコを吹かしている。
兎にも角にも、
誰もがそうだけれど(ワタシも)
情熱にまかせた、若気の至りの行動がいつしか収まって、
白髪が増え、シワが増えて、「落ち着いて」くる。
お互いなんだか哀しいねえ。
電話番号とメールアドレスを書いて渡しておいた。
今日はその後、相棒と歩いた8000歩の散歩の途中で
またコウノトリと出会った。
写真を撮りながら近づいたら、
(明日からちょっと出かけますので、コメント欄は閉じます。
スマホで書くのが嫌い苦手なので、お返事ができないため)
by Solar18
| 2022-06-24 23:52
| 愛とか恋とか
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